008. ウソから始まるホントの話
- 2009/01/08(Thu) -
酒の旨い夜だった。
例えば――隣で飲んでいるキリカは、まるで月のようだ、と。
彼女が纏う清冽でありながら鋭利でもある雰囲気は、冬の夜の月光のようだと。
そんな戯けたコトを形容(おも)いつくくらいには、若き日のヴァルターは酔っていたのかもしれない。
「なあ、キリカ――俺の女にならないか」
戯れに投げかけてみた。隣で飲んでいるキリカに一刀両断されるコトを承知の上で、だった。
だが……
「それもいいわね」
あっさりと。何でもないことのように肯定された。
「……」
冷たく切り捨てられればこそ、まさか肯定されるとは思わなかった。
ヴァルターは口に運ぶ杯の手を止め、まじまじと師範の一人娘を凝視する。
――月のような、女。どれだけ手を伸ばしても、届かないはずの女が。
ウソかホントか、ワカラナイような笑みで。
キリカは。
くい、っと一口酒を口に含ませると。
ぐいっ、と彼女を凝視するヴァルターの胸倉を掴み、引き寄せて。
口移しでヴァルターに酒を飲ませた。
……月が、彼の手に堕ちてきた。
接吻(くちづけ)が深くなる――

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