一見、ただの普通の杖にしか見えなかった。
しかし、その杖には細身の刃が仕込まれていた。
「まさか仕込み杖なんて、ね……」
仕込み杖に秘められた抜き身の刀身を、エステルはためつ眇めつ見る。
エステルがしげしげと眺める仕込杖は、暗殺者の武器を取り上げたものだ。
暗殺者の魔の手から依頼人を護衛するという依頼を引き受けたエステル達は、無事その任務を完了させ、暗殺者から依頼人を護り切ったのだった。
「……全然、気付かなかった……」
気付かなかったのは、仕込み杖という隠し武器だけではない。
依頼人を狙う暗殺者は、何処にでもいるような非力で平凡な老人に扮していた。
……もし、依頼を引き受けたのがエステルや普通の遊撃士、普通の兵士だけであったら、暗殺は成功していただろう。
「無理もないよ」
「今回は仕方ないと思うわ」
今回の任務完了の大きな功労者――一目で暗殺者の正体と武器を見抜いたヨシュアとレンは、エステルを慰める。
「隠し武器なんてね、普通はそんな可能性(コト)、思い付き難いと思うよ。
しかも、変装も仕込み杖もとても巧妙だったし、ね……」
「そうよ。レンだって、ヨシュアがピンと来なければ見逃していたかもしれないもの」
「……」
ヨシュアとレンがフォローする。
エステルは黙り込むが、実際は二人の言う通りだったのだ。
ヨシュアとレンを除き、依頼人を護衛していたエステルを始めとする遊撃士や、この国の兵士達も暗殺者の正体も隠し武器も見抜けなかったのだ。
何処にでも見受けられるような老人が、まさか隠し武器(しこみづえ)を持った凶悪な暗殺者だとは、誰も見抜けなかった。
――こういう時に、エステルは二人との隔たりを感じる。
隔たりとは、武術の技量が劣っているとか優れているとかの次元ではない。
ヨシュアとレン、二人が過ごした過去(じかん)のことだ。
お手柄のヨシュアとレンは、しかし功績を誇る様子はなかった。
むしろ、何処か自嘲気味だった。……それは、かつて二人が捕まった暗殺者と同じ『側』にいたからだ。
そして、同じような仕事を……こなした、その経験から見抜けたのだろう。
エステルは彼らと家族として、恋人として、毎日を傍で供に過ごしているけれども。
――こういう時に。エステルは二人との隔たりを感じる。
そして、その隔たりは、きっと埋まることはないのだろう。
埋まることのない隔たりを感じても、怖気づいたり怯えたりしないのがエステルさんですが。
- 2009/01/09(金) 00:00:00|
- 366日耐久お題|
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